March2020
DBCLSでの約13年を振り返って
本日2020年3月31日をもってライフサイエンス統合データベースセンター(DBCLS)を辞めました。 いつかはこの日が来るだろうと勤めだした頃から思っていましたが、12年と9ヶ月もの長きに渡って居ることになるとはその時には想像してませんでした。
DBCLSに参画する前は、理化学研究所でマウス完全長cDNAクローン作成とその配列解読プロジェクト(現在もその後継は続いており、FANTOMとして知られているプロジェクト)に関わったあと、典型的な生命医科学分野の実験メインの研究を埼玉の秘境にある大学の研究センターで行なっていました。 より詳しくいうと、ゲノムも解読され、ゲノムや遺伝子アノテーションもしっかり付けられ、おまけに全ての遺伝子に対してRNAiのライブラリが利用可能だった線虫(C.elegans)を使って、脂肪細胞分化とクロストークする低酸素刺激による遺伝子制御ネットワークをトランスクリプトーム測定(当時はマイクロアレイ)によって研究していました。
しかし他の生物種との比較解析を行おうとした時に、そのアノテーション状況をはじめとしたデータベースの不備が障害となって、その場しのぎの突貫工事ばかりでなかなかうまくは進められずにいました。 そんな中、生命科学分野のデータベース(DB)を統合して誰でも自由に無償で使えるようにしようというプロジェクトがあると聞いて関わるようになりました。 その場しのぎではなく、きちんと生命科学研究におけるインフラとなる高速道路を作って、アイデアが出た時にすぐに必要なデータを統合して研究ができるようにしたかったからです。 だから、最初は以前の所属のまま、教材を作成する仕組みを作るプロジェクトに参画しました(2006年度)。 教材づくりをやったのは、統合DBプロジェクトとして教育をやって欲しいという意向があったからで、今も変わらぬ同志であるかずさDNA研究所(現・国立遺伝学研究所)の中村保一さんと一緒に取り組みました。 実際にそのセンターとしてDBCLSを2007年4月に設立するという話になり、その年の7月にDBCLSに異動して統合DBの仕事をメインにするようになったのです。
DBCLSに移ってまず始めたのが、動画での教材作り、今の統合TVでした。 当初の計画では、DBを使いこなすための本を出版するということでしたが、もうそんな時代も終わるだろうということで、日本に上陸したばかりのYouTubeを活用した動画コンテンツ作りを初めたのでした。 同じ月にDBCLSに入った河野信さん(現・富山国際大学)と一緒に統合TVの立ち上げに取り組みました。 動画作成には大学生や大学院生にResearch Assistant(RA)としてアルバイト代を払って作成してもらい、同時に生命科学分野のDBやウェブツールに関する知識もつけてもらって。 そのRA第一号が、現在統合TVのすべてをやってくれているDBCLSの小野浩雅さんです。 ちなみに統合TVは、2019年度末の今日現在で1,805のコンテンツのある巨大なリソースとなっています。
統合TVと同時に、その動画コンテンツを利用した統合データベース講習会AJACSも立ち上げました。 2019年度末時点で、AJACSの通し番号は81となっており、数多くの講習会を実施してきております。 2011年からはその年の4月に発足したJSTのバイオサイエンスデータベースセンター(NBDC)が講習会を担当することになり、自分は講習会の講師としての関わりだけになりましたが、それまでの講習会の企画や自らも講師 として登壇するなど、まさしく教育の仕事をしておりました。 今では、AJACS講習会自体の撮影動画も統合TVから見られるようになっています。
その傍ら、DBCLS謹製のDBやウェブツール、AllieやGendooなどにも関わりました。 その一方で、ただDBやウェブツールの使い方を紹介するだけでなく、実際に使って見せて、可能であれば論文発表までするべきだという思いが強くなり、DBCLS外部との共同研究も2010年ごろからするようになりました。
国立遺伝学研究所のDNA Data Bank of Japan (DDBJ)と連携を深めるということで、DBCLSの一部のメンバーが三島に移る際に私も移ることになり、2014年4月から遺伝研勤務となりました。 そこで、Pbyte(ペタバイト)オーダーのデータ量となっていた次世代シークエンサーのDBであるDDBJ Sequence Read Archive (DRA)を検索するしくみを作ろうということで、同僚2人を巻き込んでDBCLS SRAとしてシステムが構築されました。 また、遺伝子発現DBの統合化された検索サイトをということでAll of gene expression (AOE)を静岡県に移ってから一緒に仕事するようになったウェブエンジニアの方と作成しました。
また2017年には、統合データベース講習会AJACSで教えてきた内容の集大成として、生命科学データ解析の教科書にまとめました。 さらに翌2018年、インターネットを研究ではあまり使いこなしていない層に対して、統合TVの動画にまでリーチできるような手引書を出すこともしました。 結果として、かつては諦めてしまったDBを使いこなすための本を出版することに関しても達成することができました。
それと並行して、DBCLS外部の研究者との共同研究も進め、論文として公開し、プレスリリースまですることも増えてきました。 そんな中、高速道路はだいぶ出来てきたたので、自分も思う存分「走って」使い倒したい、そういう思いを強く持つようになりました。 そこでこの度、インフラを作って維持管理することがメインの仕事から離れることにしました。 来月2020年4月からは転職して、バイオインフォマティクスの教育をしながら、生命科学分野の高速道路を使い倒して研究をする仕事に就きます。
これまで長い間、お世話になりました。 今後ともDBCLS/NBDCの統合DBを何卒よろしくお願いします。